• 桑原 裕
  • 株式会社GVIN代表取締役CEO
  • 兼オーストリアマイクロシステムズ・取締役
  • 兼新経営研究会代表世話人

1  緒言

暗黙知ネットワークを構築していくとき、時として、行き詰まることがある。それは、自分として精一杯のことをし、相手からもこれ以上ないというほどの誠意あふれる対応をしてもらい、互いに出しつくしてしまったような気持ちに襲われる時である。このようなときは、原点に戻って、私たちを取り巻く世界を、もう一度良く見るのである。即ち、利害関係を離れて、私たちが住んでいるこの地球のことを考え、我々が生きている間に、この地球が少しでも住みやすい環境になるように、地球に起きている様々な問題について、考えるのである。そうすると、沢山の問題が山積しており、それらが、ソリューションがないまま、放っておかれていることに気付くのである。これらの山積している問題に対して、この件は、A氏ならきっと良いソリューションを持っている、これこれの課題については、B氏が適任だ、などと、次々と、友人・知人の名前が浮かび上がってくる。ここから、また新しい友達が生まれてくる。

 

2 ”Dialogue for Global Innovation” プロジェクト

実は、このようにして、筆者の暗黙知ネットワークは広がっている。特に、筆者が深く関わっている“Dialogue for Global Synergy”に関するネットワークではそうである。これは、5年のプロジェクトである。21世紀に日本および世界に起きる様々な課題について、その課題を明確に捉え、そのソリューションを考え提案するのである。プロジェクトは、日本を中心として、英国、米国、ドイツ、フランス、オーストリア、スイスと世界的な規模であるが、日本は、産官学の代表20人程度、外国は各国2-5名程度で、比較的小規模である。当然、「グリーン・エネルギー」、「ヘルスケア」、「人口問題」、「食糧問題」、「環境」、「少子高齢化」、「超ユビキタス社会への対応」、「産学連携」、「イノベーションとアントレプレナーシップ」、「教育」等々、多くの課題がその中に含まれる。しかし、初年度は、これら多くの課題に一度に取り組むのは、間口が広すぎて、議論が散漫になる恐れがあるので、「基礎・基盤技術とイノベーション」に焦点を当てた。具体的には、下記のテーマである。

(1) Trends of innovation study in each country

(2) How innovation research adopted in the nation’s policy

(3) Research trend of economic and social impact of  Fundamental Research

(4) Best practice of maximizing the economic and social impact of Fundamental Research

これらを、20011年12月1日に設定したシンポジューム(六本木のGRIPS(政策研究大学院大学)で開催する)の共通テーマとしたのである。勿論、各国の代表が、その国の特別重要な問題等を持ってシンポジュームに参加した場合、これを認める。実は、シンポジュームに参加する場合は、必ず、ポジション・ペーパを書いて参加するのである。そして、シンポジューム後、直ちにその内容を、Web等で社会にメッセージとして伝えるのである。また、シンポジュームの結果を本にして社会に提示する。このような活動を5年間続けるのである。

海外では、筆者らの知人が沢山いる大学(例えばケンブリッジ大学)の先生や、企業や国家機関の中枢の地位にいて、今は、比較的悠々自適にしている人たちや、ベンチャー・キャピタリスト、ベンチャーのCEO等に声をかけた。国内では、英国などの大使館、国内大学、企業、政府等の友人・知人である。

 

3 暗黙知ネットワークの広がりの分類

この暗黙知ネットワークの広がりを分析してみると、大きく、下記のような3つのパターンに分類されることが分かった。

その第一は、暗黙知ネットワークは、生きたネットワークであり「フェース・ツー・フェース」の機会があればあるほど、広がり、また深まり、強固になるということである。即ち、「出会い」の機会が多いほど、ネットワークは拡大する。また「出会い」の衝撃が大きければ大きいほどネットワークは強固である。

第二は、暗黙知ネットワークは、まさに信頼のネットワークであり、したがって、個人の意見がコンシステントであることが、このネットワーク拡大にとって、極めて重要かつ必須である。このことは、友人としての信義にかかわる問題であるが、往々にして、A氏に言うことと、B氏に言うことが、微妙に異なることはありうる。受け取り方や、対応が微妙に異なるからである。しかし、こちらは、明確に同じことを言わなければなければならない。なぜなら、相手は、かなり頻繁に(日本人の目からは)職場を変わり、昨日の競合相手のチームに今日は仲間入りする、というようなことが、日常的に行われるからである。もし、こちらの発言が、2か所で矛盾するようなことがあれば、たちまち、相手はこちらを信用しなくなる。しかし逆にこちらの考え方が全くぶれていなければ、相手の信用は、非常に強くなるのである。5年、10年と友人関係を続けて行くうちに、その価値が分かるのである。

第三は、暗黙知ネットワークは、「世界の英知ネットワーク」であり、その広がりは、「友達の友達は友達」により、勢いがつく。これはまさにそうであり、友達が、ベストの友達を紹介してくれることが、このネットワーク拡大のキーポイントである。友達が友達を紹介してくれるとき、必ずと言ってよいほど、とっておきのbest  friendを紹介してくれることが多い。したがって、こうして拡大していくネットワークは、まさにベストのネットワークである。

 

4 暗黙知ネットワーク構築・強化の事例紹介

 筆者は、”Dialogue for Global Innovation”で、このようなネットワークの広がりを、実際に体験したが、その一端をここに紹介する。

ケンブリッジ大学・工学部に ”Sir Michael Gregory” という教授がおられるが、この教授は、工学部のプロセス・コントロール分野におけるMOTの仕事で、大きな業績を挙げた。この教授は、筆者の親友である同大学キャベンディッシュ研究所のHaroon Ahmed教授の親友である。筆者は、Haroon Ahmed教授の紹介でこのGregory教授に会い、”Dialogue”プロジェクトについて、その意義・影響等々を説明した。実は、この教授とは、かつて、筆者が企画・運営委員をしていたIFTM(ヨーロッパ技術経営会議)でご一緒し、パネル討論でも一緒であったことが分かった。結果は、Gregory教授がフルに”Dialogue”プロジェクトにコミットしてくださり、2011年12月1日に東京(六本木のGRIPS)で開催される、第一回”Dialogue for Global Innovation”プロジェクトのシンポジュームで、スピーチをし、ポジション・ペーパーも書いて下さる、ということになった。

次に、同じ英国ケンブリッジであるが、Dr. Hermann Hauserというベンチャー・キャピタリストがいる。彼は、1,000億円企業を3つも育て上げ、その功績に対して、女王陛下から勲章を授与されている。実は、このHermann Hauser氏と筆者は20数年来の親友である。通常は、筆者が仕事で、世界の先端技術を、日本企業に紹介するために、ベンチャー・キャピタリストのHermann Hauser氏に会うのである。しかし、今年(2011年)の2月、ケンブリッジの同社本社でお会いした時、会合の最後の方で、”Dialogue for Global Synergy” について簡単に説明した。ところが、彼は目を光らせ、「私も実はこれを書いたのですよ」と、彼が英国政府に提言した、「科学技術育成の政策提言(基礎・基盤研究を大事にする)」を筆者に手渡してくれた。そして、「このDialogueプロジェクトは非常に大事です。私も参加します」と言ってくれたのである。12月1日のシンポジュームに彼が来れるかどうか、今のところまだ明確ではないが、是非来てほしいと思っている。万一来れなくても、ポジション・ペーパーを是非書いていただきたいと思っている。

更にもう一件、やはり英国ケンブリッジであるが、James CollierというEntrepreneurがいる。彼は、筆者の10数年来の親友である。実は、彼は、CSR(Cambridge Silicon Radio)というブルートゥースのチップを世界で初めて開発した会社(1999年創業、2004年ロンドン市場に上場)の創業者であり、CSR社のCTOでもあった。筆者はこの会社を、Hermann Hauserさんに頼まれて支援した。実は、2004年1月1日から5年半、この会社の日本の代表&会長として、この会社の発展に尽くした。結果は、1,000億円企業に成長したのである。彼は、現在元CSR社の仲間と一緒に、新ベンチャー企業Neul社(テレビのwhite spaceを活用)を立ち上げている。彼は、根っからのEntrepreneurであるが、技術へのこだわりは凄まじく、彼が狙ったベンチャーは必ずと言ってよいほど、大成功している。筆者も請われて、Neul社を助けている。このJames Collier氏は、”Dialogue”プロジェクトに全面賛成である。12月1日のシンポジュームにぜひ参加したいと言っている。

オーストリア大使館のMichael Haider氏とは、私としては、初めての出会いであった。”Dialogue”プロジェクトについて丁寧に説明し、このプロジェクトは、日本として、また世界として是非遂行しなければならないことを熱心に説いた。じっと私の説明に聞き入っていたMichael Haider氏は、この”Dialogue”プロジェクトに大賛成の意を表してくれた。そして、オーストリアだけでなく、ドイツ、フランスの代表的人達を紹介してくれた。これは、今も続いている。

スイスのGeorge Haour教授(IMD)は、筆者と20年以上親しくお付き合いしているMOTの研究者である。Georgeは、スイスの多くの企業の代表的人達やOECDに勤務しているスイスの人など、実に多彩な顔触れを紹介してくれた。実は、”Dialogue”プロジェクト構想の初期のころからの、検討仲間である。

アメリカでは、ケースウェスターン・リザーブ大学の長年の友人である同大学Weatherhead Management School のDeanをしているMohan Reddy氏がProf. Kalle Lyytinenさんを紹介してくれた。Mohan Reddyは、筆者を、過去(1990年から今日まで)5-6回、同大学のマネジメント・スクールに呼び、講義をする機会を与えてくれた。Mohan Reddyさんご自身は、現役のDeanであり、12月1日に来日するのは、かなり困難なようである。

5 今後の展望

 このようにして、”Dialogue for Global Innovation”プロジェクトは、スタートを切った。後は、懸命にこれを鋭意・実行し続けることである。往々にして、5年ものプロジェクトでは、中だるみや、人が去っていく等で、プロジェクトがうまく進まなくなってしまいがちである。実は、このことが、また、暗黙知ネットワーク構築の妙味である。このような長いプロジェクトをしっかり実行していった暁には、一緒に考え、汗を流した仲間と、より強固な絆を築き上げることが出来るであろう。そうすれば、その後、更に新しい5年のプロジェクトも可能である。筆者は、それを楽しみにしている。

6 参考文献

6.1 Yutaka. Kuwahara, “Outline of Dialogue for Global Innovation”, July 2011

6.2  Koichi Sumikura, “Symposium Program for Dialogue for Global Synergy”, July 2011

6.3  桑原 裕:“グローバルな場で考える日本のイノベーション”、研究技術計画学会 2011年大会

 日本の産業が最近閉塞感に陥っているように見える。世界をリードする、世界をあっと言わせるような、新しい時代の先端を切り開くアイディアが生まれてこない。何故であろうか。考えて見れば、大震災の時、日本のロボットは全く機能しなかった。あれほど、どこもかしこもロボットの研究をしているのに、である。計測機も大方そうだった。因みに、大震災で活躍したロボットは、英国のQinetiQ研究所の米国研究所が開発した軍事用ロボットである。なぜ日本のロボットや計測器は、震災で役に立たなかったのだろうか。それは、日本が、すぐ金になる近未来の技術にしか投資しない、といった短期的思考が最近身についてしまったからではないだろうか。では、一方、すぐ金になることで、果たして日本は成功しているであろうか。昨今の、対韓国、対台湾、対中国の商売を見ていると、ここでは極めて苦しい戦いをしていると言わざるを得ない。日本が世界から期待されていることと、日本の行動との間に、ずれができ、これが広がっているのではないだろうか。これらの事実は、今こそ、日本が、抜本的にイノベーションを見直す重要な時期に来ていることを示唆していると、私は思う。

 戦後65年が過ぎ、追いつけ、追い越せの時代は終わった。今日本の技術は、世界の先頭にたっている。少し揺らいだとしても、日本の技術はやはり健在である。この立場こそが重要である。この立脚点に立って、日本は、世界と膝つき合わせて対話し、世界の問題を本当に把握し、金になる・ならないは別として、世界が遭遇している諸問題を解決する長期・中期・短期の枠組みを、世界と一緒になって考え、イノベーションのグランドデザインを作ることが、世界から期待され、求められていると私は思う。なぜなら、それをやれる力が日本にまだあるからである。

 日本だけで解決できない問題も沢山あるだろう。これらは、国連などの世界の組織に持ち込み相談すればよい。日本と世界各国との連携で対応できるものは、そうした国家連携をどしどし推進して対処すればよい。日本が得意とするイノベーションについては、大いに日本の特徴を生かし、企業や政府や大学が連携して対応する。このようなことを率先垂範することが、日本の将来にとって極めて重要であると思う。

 このように、イノベーションのグランドデザインに関する世界との対話の場の設定には、産官学を横櫛でぐさっと刺して、連携させること、世界に声をかけて、具体的対話の場を作ること、等が大事である。また、これは一過性であっては、あまり効果はない。3年、5年、7年と地道に努力を積むことが重要と思う。果たしてそのような場が設定できるであろうか。実は、筆者はそのような場の設定を現在鋭意行っている。それが、”Dialogue for Global Innovation(世界技術革新会議)”である。その概略を以下に述べて見たい。

 “Dialogue for Global Innovation” プロジェクトでは、21世紀に日本および世界が遭遇しつつある諸問題、例えば、グリーンエネルギー、環境問題、ヘルスケア、少子高齢化、超ユビキタス時代の問題、アントレプレナーシップの問題、産学協力の問題、等々をとりあげて議論する。ただ議論するだけではなく、必ず、Position Paperを書いて、これに沿って発表し議論する。これは、5年のプロジェクトである。日本を軸として、英国、米国、ドイツ、フランス、オーストリア、スイスに声をかけ、国際的なプロジェクトとした。日本は産官学を代表する方々約30人がそのメンバーである。ただし、今年は初年度でもあり、テーマがあまりに広いと議論が散漫になるので、議論を、基礎研究の知識が、如何なる経済的・社会的インパクトを持つか、またそのインパクトを最大化するための方策に焦点を当てることにした。

 また、初年度は、特に英国に焦点をあてている。英国からは、ケンブリッジ大学のSir Michael Gregory先生や先に述べたQinetiQ研究所の研究者、日立ケンブリッジ研究所長らを招聘し、今年(2011年)12月1日に、六本木のGRIPS(政策研究大学院大学)でシンポジュームを開催する。その結果は、直ちにwebに載せてグローバル社会に発信する。また、これを後に本として出版する。2年、3年・・・と続けていくうちに、次第に社会に強いインパクトを与えていくと思う。また、1,000億円企業を3つも生み出したベンチャーキャピタリスとして著名な、アマデウス・キャピタル社長Dr. Hermann Hauser氏や、その1,000億円企業の1つの創始者であり、またアントレプレナーでもあるJames Collier氏らも、ここに招聘している。彼らは、このプロジェクトに大いに共鳴している。日本と文化・風土が違う中で、面白い議論が展開されると思う。さらに、大変著名な、ケンブリッジ大学・キャベンディッシュ研究所のSir Richard Friendもこのプロジェクトへの共鳴者である。

 さて、筆者らのこのような努力が、どのような形で実を結ぶか、まだ分からない。しかし、このような、グローバルな舞台で、産官学を横櫛で刺すような試みは、実際には、少ないのではないだろうか。また、5年もこうしたプロジェクトを続けるという試みは、極めて少ないと思う。しかし、このような試みが、これからの日本には必要であると思う。この実現には、それ相当の努力がいることは十分覚悟している。それを承知で、このプロジェクト始めたのである。

 このプロジェクトの具体的な実現過程で、日本開発工学会と、多くの面で、接点を持てると思います。ぜひ、皆様の絶大なご支援を頂きたいと願っております。

Program Day1 at_Graz・The Future of Urban Mobility.pdf 2nd Day Program

The Future of Urban Mobility.pdf 2nd Day Program

Program Day1 at_Graz こちらをクリックして頂くと「Program Day1 at_Graz」の全文がPDFで開きます。 The Future of Urban Mobility.pdf 2nd Day […]

 ...read more

Summary of Dialogue Project November 2016 rev 7

Dialogue for Global Innovation

Summary of Dialogue Project November 2016 rev 7 こちらをクリックして頂くと「Summary of Dialogue Project November 2016 rev 7」 […]

 ...read more

“Dialogue for Global Innovation”プロジェクトの、
一連の国際シンポジュームに関する ご紹介

Dialogue for Global Innovationプロジェクトの、一連の国際シンポジュームに関する ご紹介

“Dialogue for Global Innovation”プロジェクトの、一連の国際シンポジュームに関するご紹介 (株)GVIN代表取締役CEO 桑原 裕 2009年に、筆者らは、東大名誉教授の和田昭允先生や、GR […]

 ...read more

グローバル・イノベーション加速に関する提案-暗黙知ネットワークの拡大で

グローバル・イノベーションが叫ばれている。これなしでは、日本は本当に沈んでしまうからである。しかし、グローバル・イノベーションは、急に叫んでも実現はしない。やはりじっくりと、順序を間違えずに手を打たねばならない。しかし、 […]

 ...read more



Copyright 2017 GVIN. All rights reserved. Design CUBE